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境界性人格障害

 ボーダーライン・パーソナリティともいわれます。
一般の出版物の中では、単に境界例といわれることもあります。

この人格障害の特徴は、対人関係の激しさと、
非常な不安定さです。

例えばある人を自分の理想だと言い、世界の中で
これほどすばらしい人間はいないと言っていたかと思うと、
大した理由もないのにその同じ相手を攻撃し、
裏切られたと言います。

このタイプの人格障害は、
米国を中心によく研究されており、
日本の精神医学でも注目されてきました。

またマスコミにもときどき登場しますので、
目にした方もおられるかもしれません。

そこでこのタイプについては少し詳しく
説明することにします。

特徴

この障害の根本には、理想化した相手から
見捨てられたくないという願望があるといわれます。

理想化が激しい分だけ、些細なことで
見捨てられたように感じてしまいます。

見捨てられないために非常な努力をする反面、
本当に見捨てられたと感じたときには相手を罵倒したり、
絶望に耐えきれずに自殺をすることさえあります。


一例をあげると、理想の相手との関係を確認するために、
あえて相手の仕事中に連絡をとるなどの無理な要求を重ね、
それがかなえられないと絶望します。

いつでもむなしいと感じ、時に二、三日単位の
ゆううつや不快感におそわれます。

また怒りが生じると非常に激しく、
前後の状況から見て度を越していることがしばしばです。
一過性の幻覚や妄想を生じることもあります。

だいたいは対人関係、自己像、感情の不安定および著しい衝動性の広範な様式で、
成人早期までに始まり、種々の状況で明らかになります。

次の5つ以上の症状があれば、境界性パーソナリティ障害と診断される。

1.現実に、または想像の中で見捨てられることを避けようとするなりふりかまわない努力

2.人に対して、時には理想化、賞賛し、時にはこき下しする、という両極端を揺れ動く、不安定で激しい対人関係様式

3.同一性障害:著明で持続的な不安定な自己像または自己感

4.自己を傷つける可能性のある衝動性で、少なくとも2つの領域にわたるもの(例:浪費、性行為、物質乱用、無謀な運転、むちゃ食い)

5.自殺の行動、そぶり、脅し、または自傷行為の繰り返し

6.顕著な気分反応性による感情不安定性(例:通常は2~3時間持続し、2~3日以上持続することはまれな、エピソード的に起こる強い不快気分、いらいら、または不安)

7.慢性的な空虚感

8.不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難
(例:しばしばかんしゃくを起こす、いつも怒っている、取っ組み合いの喧嘩を繰り返す)

9.一過性のストレス関連性の妄想様観念または重篤な解離性症状


子どもの時の体験が関係するか

実はこうした極端な好き・嫌いの態度は、
子どもの成長過程によく見られるものと似ています。

嬉しいときにはこころから喜び、
叱られると泣き出して「もうパパなんか大嫌い」という
子どもの姿には、多くの方が心当たりがあるでしょう。

子どもにとって自分を愛してくれる人間は、
全面的に「良い」対象ですし、
逆に叱ったり見捨てたりする人間は、
徹底的に「悪い」対象であると感じられます。

それにともなって子どものこころは、
すみずみまで幸福に満たされたり、
どうしようもなく絶望し、悲しんだり怒ったりします。



子どもの場合は成長するのにしたがって、
こうした「良い」イメージと「悪い」イメージを
こころの中に記憶するようになります。

悲しんだときにも「良い」体験を思い出して立ち直ったり、
嬉しいときにも「悪い」体験を思い出して、
はしゃぎすぎないように気をつけたりします。

こうした成長にとって必要なのは、親などの周りの人間が、
優しい顔や怒った顔を見せながらも、
安定した子どもとの関係を続けるということです。

こうした安定した養育を受けることによって、
子どもは次第にふたつのイメージを
統合していくのだと考えられています。

これと反対に、児童の虐待、近親相姦、
急激な見捨てられ、といった体験は、
境界型人格障害をひき起こしやすいとされています。

分かりやすい説明

●いつも人から見捨てられる気がして安心できないので、人にしがみつく。または自分
 から突き放してしまう

 ~人との関係に安心感を感じて安堵する事ができない為に、絶えずいずれ突き放されると感じて危機感を抱く。その為に絶えず相手にしがみつく。又は、突き放される前に自分から突き放す。

●人への評価が、初めはとても尊敬していても、後に欠点が見えると手のひらを返したように軽蔑する

 ~例えば、異性と出会ってとても情熱的に惚れ込み、こんな素晴らしい相手はいない
と感じて同棲するが、次第に相手と自分の違う部分に出会ってトラブルが起きてくる。
そして次第に欠点が目について、幻滅や過小評価から相手への怒りや不安を呼び起こす

●孤独感や不安や葛藤を紛らわす為に、一時的な快楽や満足を求めて、絶えず何らかの直接的・短絡的な衝動の満足をしていないと落ちつかない

 ~主観的で一時的な快楽・満足状態を味わう事で、心の不安や葛藤を処理する心のメカニズムによるもので、セックスにのめり込む・薬物乱用・激しい音楽への没入・無謀な運転や、過食など、その姿は自己破壊的に見える

●落ちついているかと思えば、今度は落ち込んでいたり、不安がっていたり、いらいらしていたりといった感情の急な変化が起こり、かんしゃく、自傷行為、喧嘩などを起こす

 ~正常な気分から抑うつ・いらいら・不安への著しい変動。感情や気分の変動が多く特に抑うつ感と不安が激しい。
絶えず抑うつ的になり、焦燥感が起こって不適切な怒りや
自分へのかんしゃく、喧嘩や自傷行為を含めた自己破壊的な行動をくり返す。
(抑うつ的という点では、うつ病との合併が極めて高いと言う精神科医もいます)

●周りが驚くほどの激しい怒りを見せ、喧嘩をくり返したりする

●自殺の脅しやそぶり、自傷行為を繰り返す

●職業選択や自分の価値観などが漠然としか感じられなくて、自分は何者なのかというアイデンティティーの感覚が掴めずに、虚無感をいつも感じている

 ~一貫した安定した自己像、男性・女性としての自分、何らかの社会的な価値観や職業・役割・集団への安定した帰属・同一化がうまくできないために、社会や家族としっかり結びついた安定感と生き甲斐を見出すことができない。
絶えず慢性の空虚感・離人感・退屈感を感じている。

接し方のコツ(例)

* 「変らないスタンス」が何よりもの支えになる
* 援助するさいにも「限度設定」をする。
* 受容や共感するさいにも、「冷静さを忘れない」。
* どうしたらよいのかは、本人に考えてもらうことを優先する。
* 自殺企図などには、「行動制限」で対処する。